【迎える空間、その想い #4】 「静と動の余白」は、どのようにつくられるのか。

「迎える空間、その想い」では、企業や施設が人を迎える空間に込めた想いを、Bamboo SALAがどのように装花として表現しているのか、代表・湯澤悦子の視点でご紹介します。

#1〜#4では、シンガポールで8年間の実績を積み、2026年に東京・表参道に日本第一号店を開業した「Atelier Kogao Tokyo」の空間装花を取り上げ、オーナー・大曽根貴子氏のお話も交えながら、その背景にある想いや、装花として形にしていく過程をお伝えします。

目次

#4「静と動の余白」は、どのようにつくられるのか。

静けさのなかに、躍動感を

Atelier Kogao Tokyoの準備中に訪問した際、既にやさしい木目と白を基調とした、知的で清潔感のある整った印象が備わっていると感じました。

一方で、完成の一手となるアクセントは、まだ手つかずで残されているようにも思いました。この白と木目の空間に、ほんの少し、遊び心のある要素を上品に添え、さらにそれを定期的に変化させられたなら、大曽根氏の目指す「五感に良い刺激」の実現につながると感じました。

デザインにおいては、Bamboo SALAの目指す「静と動の余白を愉しむラグジュアリー」を意識しました。

それは、西洋の構造美に、日本の引き算の美学を重ねた、Bamboo SALAの独自スタイルです。

フラワー装飾の基礎概念に基づく端正な形と、空間にふさわしい節度。そうした安心感につながる秩序が「静」ならば、植物の線を大胆に伸ばし、ときには一輪をあえて突出させる。定型からわずかに踏み出す挑戦と躍動感が「動」です。

また、花と花の間に意図して隙間をつくったり、風に揺れるような余韻を残したりする「余白」が、「静」と「動」の両者を一つの表現として調和させると考えます。

その三つが揃うことで、安心感がありながらも面白く、奇抜ではないのに個性を感じる。目を引きながらも、ずっと眺めていられるような花が生まれると考えています。

大曽根氏は、完成した装花を次のように表現してくださいました。

「まるで最初からそこにあったかのような、自然な馴染み方をしています。派手すぎず、かといって物足りなくもない、絶妙な存在感です。お客様がふと視線をやったときに、ほっと心が緩むような佇まいになっていると感じています」

アーティフィシャルだからこそ必要な、見えない技術

アーティフィシャルフラワーには、生花とは異なる素材の特性があります。その魅力を生かして思い描く表現へと近づけるためには、生花で培った技術を土台としながらも、素材に応じた選定・加工・構成が必要です。

そもそもフラワー装飾は、生花であっても、植物の自然な姿をそのまま見せるだけのものではありません。

例えば、花に関する国家資格である「一級フラワー装飾技能士」の実技試験では、75cmほどある長くて細いカーネーションの茎に、太いワイヤーを二本、茎を折らないよう慎重かつ手早く沿わせ、巻き付ける工程があります。生花の茎を補強し、定められた高さ、横幅、奥行き、角度、湾曲の度合いに合わせて、設計図どおりの立体的な構造物をつくるためです。

アーティフィシャルフラワーの茎には、あらかじめワイヤーが入っています。私は、生花による立体的な構造物をつくってきた経験を生かしながら、アーティフィシャルフラワーの精巧な形状や質感そのものにも魅力を感じ、積極的に用いています。

空間とともに完成させる、現場での仕上げ

もう一つ、大曽根氏の言葉にある「まるで最初からそこにあったように、なじむ佇まい」の実現には、定期装花の交換ごとに行う、現場での仕上げが大きく関係しています。

ギフトやインテリアとしてお届けする花には、贈る方の想いを託し、受け取った方が箱を開けたときから美しく飾れるよう、作品そのものの完成度を高める設計があります。

一方、Bamboo SALAの定期装花では、交換のたびに私自身が現地へ伺い、その季節の花を、実際の空間の中で仕上げます。生花では、このような現地作業を「活け込み」と呼ぶこともあります。

同じ装花でも、光の入り方や背景の色、家具との距離、見る人の動線、空調による揺れ方によって、その印象は変わります。現場では、実際の空間を見ながら、花の向きや高さ、枝葉の広がり、花と花の間の余白を、一輪ずつ調整していきます。

アーティフィシャルフラワーは、美しい状態を保てる素材だからこそ、形を固定しすぎず、わずかな動きや揺らぎを残すこともできます。端正な「静」を土台に、植物の線が生み出す「動」と、空間へと続く「余白」を加えることで、見る角度によって表情が変わり、風や空調にもかすかに揺れる装花になります。

作品単体で完成させる花とは、異なる考え方でつくられるもの。

花を空間に置くだけではなく、光や家具、人の動きとの関係まで含め、その場所で完成させられることが、現場設置を伴う定期装花の特徴です。

一人になる場所にも、小さな発見を

ところで、洗面室は、お客様が一人になる場所です。

「こんなところにまで」と思っていただけるような、小さな驚きを届けたいと考えました。

大曽根氏はこの洗面室の花を大変気に入ってくださり、「これなら飛行機の荷物に入るから、シンガポールの店舗にも飾りたい」と、装花の交換のタイミングで一つを持ち帰られました。

現地に飾ったその日の朝、最初にご覧になったお客様から「可愛い!」という歓声が上がったそうです。

一つの小さな花が、海を渡って人の心を少し動かす。その知らせが、今度は私を喜ばせる。

花から生まれる、この小さな喜びの連鎖が、私がこの仕事を続けている理由の一つです。

再訪者にも、新しい発見を

Bamboo SALAの定期装花では、花だけでなく、花器も含めて毎回交換しています。

一度完成した美しさを保つことだけが、定期装花の役割ではありません。季節や時期に合わせて空間の表情を更新し、再び訪れるお客様にも新しい発見を届ける。空間が継続して丁寧に手をかけられていることを伝える、印象づくりの一つです。

大曽根氏は、これからの装花への期待を、次のように話します。

「春の柔らかな芽吹きから、夏の涼やかさ、秋の実りの豊かさ、冬の凛とした静けさまで。それぞれの季節の空気感を、お客様の五感にそっと届けてくれるような装花を、これからもBamboo SALAと一緒につくっていけたらうれしいです」

サロンのお客様からは、

「入った瞬間に花が目に入り、心が躍る」
「花を見ているだけでリラックスできる」

という声が寄せられているそうです。

装花の写真を撮り、SNSに投稿される方もいらっしゃるとのこと。

質感や色合いを見て「本物みたいですね」と驚かれ、装花がお客様との会話のきっかけになることもあるといいます。

企業が大切にする人への想いと、Bamboo SALAの美意識が出会うことで、「静と動の余白を愉しむラグジュアリー」は、その場所だけの表現になります。

お客様に長く愛され続ける場所でありますよう、Bamboo SALAは今後も空間装花で寄り添ってまいります。

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お話を伺った方

大曽根 貴子 氏 
Atelier Kogao 代表。Honest Capital合同会社 代表社員。シンガポール勅許会計士、日英バイリンガル税理士。KPMG、有限責任監査法人トーマツでの勤務後、2012年にシンガポ―ルに移住し、日系企業のシンガポール進出をサポートするブティック会計事務所Advance Business Support Pte Ltdを設立、2016年にライフスタイルビジネスを運営するThe Conscious Lifestyle Pte Ltdを設立し、アパレル、美容室、エステサロン等をシンガポール国内で展開している。 

この記事を書いた人

Etsuko Yuzawa
株式会社バンブーサラ代表/フラワーデザイナー。一級フラワー装飾技能士(国家資格)。「静と動の余白を愉しむラグジュアリー」をコンセプトに、企業や施設の空間装花を手がける。

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